おにぎり屋とテレビ局に見る経営者が現場に介入すべき時

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弊社の様な個人事務所に毛が生えたような小さな規模の組織は、一人一人がカバーする範囲が広範囲に渡ります。要は何でも屋で回さないとなりません。他方、ある程度規模が大きい企業になると、ほとんどの場合はきっちりした、ある意味タコツボの分業体制が取られています。どうして双方そういうスタイルになるかというと、どちらもそうしないと組織として回らないからです。いわば好き嫌いではなく、また意思の問題でもなく、規模が方法論を規定するワケですね。

今のGoogleのCEOはインド人で、最近海外のIT業界の大手はインド人の経営者が増えていると言われてます。これは本人の能力は勿論そうですが、インド社会の成り立ちとも密接な関係があるのではないかという指摘があります。インドではカースト制で、身分と職業がきっちり細分化されていますので、分業的なマネジメントには元々慣れている、親和性が高いのではないかという見立てですね。なるほど確かにうなずけるお話です。

当然中小零細極小ごま粒顕微鏡サイズの見本のような弊社の場合、社長である私が暑い日にはアイスを買い、近くに新しいショコラティエが出来たと言えば買ってきて社員のご機嫌を取りつつ「ところでこれなんだけどさ」と横刺さりのタスクをこなしてもらい、営業もやりつつディレクションもコンサルもしながら、という千手観音状態で、日々現場に介入しまくり、というより24時間現場で寝泊まり炊事家事掃除洗濯おしめ交換しつつたまに思い出したように月末に経営の仕事をするというような状態で子育て主婦と良い勝負です。日本がカースト制だったなら実は中小の社長というのはなかなかの下位層なのかも知れません。そしてほとんどの大なり小なり程度の差こそあれ、零細中小企業の経営者というのはそういう状態ではないでしょうか(違います?)。

 

しかし、大企業は当然違います。同じ事を大企業でやれば、それこそ組織は大混乱でしょう。普段隔離された役員室、社長室におり、たまに現場に顔を出せば「おい、なんだ?どうした?」「うざいよね。何しに来たの?」といぶかしがられます。特にプロパーではなく落下傘でのよそ者社長の場合ほどこれが顕著ですので現場にはそもそも近づけませんし、近づきません。

 

なので企業が現状を変えないとならない、このままだと大変な事になるぞ、という時、中小企業がいざとなれば経営者の独断と偏見、決断力でカジを一気に切り替えることが出来るのに対して、大企業の場合は幾重にも重なる官僚機構であり、階層構造かつタコツボ的であるが故に方向転換にも偉い時間がかかります。それはある意味構造的な宿命でもあります。その代わり動き出した時の馬力が桁違いなワケです。

 

勿論中には例外もあり、このように巨像を踊らせてしまうおじさんもいらっしゃるワケですが、この方の場合は極めてまれなケースなのかも知れません。

この本の著者であるルイス・ガースナーは元マッキンゼーの経営コンサルタントでした。当時落ち目も良いところだったIBMに乗り込み、ハードウエアの会社からソフトウエア、サービスの会社として立ち直らせ、劇的に業績を回復させた事で知られています。この本はIBMのCEOを退任後書かれたものです(今IBMは別な種類の問題にまた直面していますが、それは本論からはずれるのでまた別の機会に)。

 

この本の中で、ルイス・ガースナーは「初めて経営会議に出たとき、私だけが青のシャツで、他の全員が白いシャツだった。翌月の経営会議に出たとき、私だけが白いシャツで他の役員が全員青いシャツで驚いた」という話が出てきます。思わず笑ってしまうお話ですが、大きい会社になれば、上がるほど得るものよりも失うモノの方が増えてきますので、おのずと安全運転指向になってしまうのはやむを得ない事なのかもしれません。それが結果的に企業の活力を弱め、、凋落への道へ至る事になってしまいます。この「成功の復讐」、宿命にあがなえる大企業だけが、大企業として存在を許され続けるわけです。


 

そして数日前、フジテレビ再建を託された亀山社長が6月で退任するというニュースが流れてきました。4年間の在任期間中、多くの機構改革を行いましたが、残念ながら結果を出す事が出来ませんでした。

 

 

ところでこの亀山社長退任のニュースの中で、一つおや、と思う記事がありました。それがこれです。

 

 

要約すると「制作現場で名プロデューザーとして数々のヒット番組を飛ばしてきた経緯もありますので、制作現場に余計な介入したりしませんでしたか?」という記者のつっこみに対して「そんな事するはずがないでしょ、私は経営者ですよ」というやりとりなわけです。

 

しかし、他方こんな記事もありました。

 

 

ところが、口を出した結果が、もし本当にこれだったとしたならあまりにも皮肉です。

 

  • 週刊文春 5月4・11日号[雑誌] Kindle版
    倉本氏は寂しそうだった。好発進の昼ドラマ「やすらぎの郷」の企画は当初、テレビ朝日ではなくフジテレビに持ち込んだが、一週間もせずにけんもほろろに断ってきたという。テレビドラマはなぜつまらなくなったのか。その明確な答えが倉本氏の言葉の中にあった
    《実は、最初にこの企画を持って行ったのはフジテレビなんです。でも一発で蹴られました。一週間もかからず、『ダメです』とだけ返答が来ました。あまり検討しなかったのでしょうね。それで、テレ朝に持っていったら早河さん(洋・会長兼CEO)は一発で受けてくれた。大したものですよ》(「週刊文春」2017年5月4日・11日合併号より)



「フジが断った」というこの記事を読んで、実は私は当初フジの一体誰が断ったのかな、と思っていました。ただ、テレビ朝日に対しては倉本さんが早川CEOに直接持ち込んだ事を考えると、恐らくフジでも相当上層部なのだろうとは思っていましたが、こちらの記事になんと亀山社長御本人が断ったと書かれています。

 

  • フジテレビ亀山社長をクビにした「倉本聰」呪怨のひと言 (SmartFLASH) – Yahoo!ニュース


     複数のフジテレビ関係者は、「倉本氏は亀山千広社長(60)に直接企画を持ち込んだ」と話す。

    「倉本氏といえば『北の国から』などでかつてフジとは蜜月だった。亀山社長は、1980年の入社以来、ドラマのプロデュースで名を挙げた。いわゆる『月9』の生みの親で、社長に上りつめたドラマ畑の人。逃した魚は大きく、面目は丸つぶれだ」(ドラマ関係者)

 

経営者が現場に口を出す、というのはいろんな意味でのリスクや負担が伴います。過去の実績が今通用するとは限りません。しかし、現場に任せておくことが短期的に見て常に正しい、という事もありません。現場に任せても変わらないとき、それを変える事が出来るのは経営者だけなのです。結果が出てない現場に丸投げし続けるのは、むしろ経営者としては失格と言えるでしょう。例え現場がいやがっても、「介入」しなくてはならない時というのが必ずあります。

経営者の現場介入、という件で、ローソンで社長を務めた新浪さんのエピソードを思いだしました。三菱商事がローソンを買収し、当時まだ43歳で新浪さんがローソンの社長として送り込まれます。 

一見すると華やかなお話ですが、当人の立場からするとえらい大変な事態です。まず元々商社マンですから、基本的に「よそ者」であり、コンビニのオペレーションを熟知している訳ではありません。そして来られる側から見ると、言葉は古いですが「進駐軍」です。当時凋落著しいローソン社内の活気は下がっており、お手並み拝見という日和見の人も多かったでしょう。こういう時ほど社内の政治性も無視出来ない、やっかいな問題となります。

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そこで新浪さんは考えます。これは何か一発見せてポジションを作れるかどうかが今後の指導力を左右するぞ、と。そこでいろいろ考えた結果、目を付けたのが高価格帯のおにぎりだったワケです。

 

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これまでの売価は忘れて米、具材、全てにおいて徹底的に品質こだわった良いおにぎりをつくれ!と社内で「おにぎりプロジェクト」を立ち上げます。多くの社員は「社長、本気ですか!?そんな価格帯のおにぎりが売れるはずがありませんよ」とか「これだからコンビニシロウトの社長は困るんだよな」という声が渦巻いたそうです。

 

しかし、結果は皆さんご存じの通りです。結果的にマネされる事しかなかったセブンも珍しくマネをすることとなり、今やコンビニの高価格帯おにぎりは完全に定番商品で、無いのが不思議なくらいです。

 

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このトップダウンで実現した「業界の非常識」によって「よそ者」だった新浪社長は結果を出し、社内のグリップを一気に高める事に成功、今日への業績回復へとつながっていくわけです。勿論これはもし失敗していたら一気に求心力がダウンしていたわけで、のるかそるかの、極めてリスキーなかけでもありました。ただ、恐らく新浪社長が現場に介入せず、そのまま任し続けていたなら、このような「業界の非常識」なおにぎりは、決して生まれてこなかったでしょう。

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そしてもし報道の通りだとするなら、亀山社長は現場を熟知したプロパーでありながら現場介入で結果を出す事が出来ず、求心力を落としてしまい退任となり、、現場を知らないノンプロパーの新浪元社長はおにぎりという一点突破で成功を収め、社内を掌握してその後の業績回復につなげたことになります。新浪社長はその後サントリーホールディングスのCEOとして「栄転」していく事になります。


 

経営者は結果が全て、ではなく、常に今出している結果が全て、です。一瞬一瞬、今を問われます。本当にシビアですよね。私達の仕事はWeb制作を通じて、顧客のビジネスに成果を届ける、その支援をする事です。ホームページ制作、Webシステム開発をする事自体はその手段に過ぎません。

私達の様な小さな会社は社長が役員会で退任を迫られることはほとんどありません。その代わり結果が出なければ、顧客に見放され、会社自体が市場から退出させられるだけです。

結果の問われる、大変シビアな仕事ですが、またやりがいのあるお仕事でもあると思っています。Web制作を通じたビジネス御相談はこちらまでお気軽にお寄せ下さい。

 

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