このままほっかむるか?本当のことを言うか?と少しだけ?追い詰められた話-吉本興業で思い出す教訓

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ビジネス雑感

ここのところ、吉本興業の不祥事がとっても賑やかです。いろんな記事やテレビを断片的に見ていて、私なりの理解としては

「反社会勢力と結果的に一緒の会食となってしまったが、そもそも反社とは知らずお金も貰ってない、と芸人達が言ったため、それを信じた事務所がテレビ局やスポンサー周りをして事を収めようとしたところ、騒ぎがどんどん拡大してしまい、改めて聴取したところ、実はお金は貰っていました、とゲロってしまい、今更組の、じゃなかった事務所のメンツがあるので認める事も出来ず、時間稼いでそのままうやむやで鎮火しようとしたら益々炎上、追い詰められた芸人達が勝手に記者会見を開いて何もかもバラしてしまい潮目も激変、話がすり替わって吉本へ批判の嵐でとうとう社長が記者会見をする羽目になったが逆効果(今ここ)でこれからどうなるやっぱり進退問題か」

という状況かと思います。

先日の宮迫と亮の記者会見で(すいません、友人でも何でもありませんが宮迫メンバーと書くのもなんなのでとりあえず呼び捨てで)、吉本の大本営発表宜しくで片棒を担いでいたと言われても仕方の無い日刊スポーツやスポーツ報知もあっという間の掌返しです。

 

 

ここまで騒動が大きくなってしまったのにはいろんな要因がありますが、結局は宮迫達が「お金は貰ってない」と最初にウソを言ってしまったのが全ての始まりです。しかし、彼らが詐欺を働いた刑事犯という訳ではありません。脇が甘かっただけでしょう。そもそも芸人は芸能事務所の社員なのか、個人事業主なのか。今時「社員」と契約書を結ばない企業ってあるんでしょうか。契約書を結んでいないのなら後者であり(後者でも結ぶよね普通)、そもそも「闇営業」ではありません。フリーがどこでどんな仕事をしようがフリーの勝手です。普段楽しませて頂いている1ファンとしては、しっかり反省してまた立ち直って欲しいと思います。

 

そしてこのニュースを見ていて、私はその昔、突然降りかかった大きな出来事の事を思い出しました。20年間も仕事をしていれば、当然一つや二つシリアスな出来事というのが存在します。

もう10年以上前のお話しで時効だと思いますので、とは言え関係者の皆さんはまだ全員存命中なので(JFK暗殺か)、差し障りの無い範囲でお話ししたいと思います。

当時私は某世界的なスポーツイベントの速報系Webサービスの開発に携わっていました。

そのプロジェクトは大元は大手広告代理店で、そこが描いた大きなプロジェクトの末端のピースの一つが、弊社がお手伝いしているそのWebサービスでした。弊社は直お取引がほとんどなのですが、そのプロジェクトでは珍しく間に元請けがいて、弊社は下請け的な立ち位置でした。末端のプロジェクトとは言っても、そのサイト自体は数万人のユーザーが会員登録していますので、それなりのインパクトは持っています。

そしてそのスポーツイベントが始まった初日の事です。とあるユーザーから「登録したのに試合速報が届かない」という連絡が来ました。

当初、テストもしっかりしているし、そんなはずはない。メールなんで経路かドメイン指定受信(つまりユーザーの設定の問題)なのでは?と思いました。

しかし同じ様な問い合わせが何通か立て続けに来て、これはもしかして?とあわててシステムを点検し始めたわけです。

やがてシステム担当者から報告が上がってきました。どうだったか、と聞くと、その担当者は自信満々に答えました。

「間違いありません。ログを確認しましたが、ちゃんとうちの速報送信プログラムは動いています。速報ネタを提供してくれる英国のデータ提供会社が送信ミスを起こしたようです。以前テスト中にも同じような現象がありましたよね。またそれだと思います」

「よし、分かった」

私は確信を得ると、元請けの担当者に自信満々に報告しました。これが後で大炎上へと繋がる事も知らずに・・・。

私「もしもし、お待たせしました。調査結果が出ました。大丈夫です。送信プログラムでコケているのではなく、速報データを提供する英国の会社がまた送信データをミスったようです。プログラムの稼働ログで確認しました」

お客様「間違いないですね?」

私「はい、間違いありません」

お客様「ですよねぇ。あれだけがっちりテストしたんですしね。そんな単純ミス今頃出るはずないですよね。いやあの代理店めっちゃ横柄な態度で文句言ってきているので、がっつり言ってやりますよ(笑)。ありがとうございます!」

私「いえいえ、とりあえず良かったです。念のため引き続き確認を進めます」

そして自宅に着いたタイミングで、担当者から電話がかかってきました。既に時刻は21時を回っています。

「田中さん、す、すいません、き、緊急のお話しがあります・・・」

動転した声を聞いた瞬間、私は何となく嫌な予感を瞬時に感じ取りました。そして次の瞬間、戦闘機もびっくりの音速で自分の血の気が引ける音が聞こえました。

「データはちゃんと送られてきていました。。一部調査漏れがありまして、そこを確認したところ、弊社の速報プログラムにバグがありました。。。」

「マジなの・・・・?」

「はい・・延長戦とかになった場合のみ発生するバグで、テストからも漏れているケースでした。すいません・・・」

そこから5分とおかずにすぐオンラインで緊急会議です。まず再度間違いの無いように事実を確認、共有しました。残念ながら何度確認しても、角度を変えても、事実は変わりませんでした。元請けは私の報告を受けて、既に広告代理店に報告したに違いありません。しかも当時開発にあたっては、その広告代理店が無理な予定と仕様外の機能をぐりぐり押し込んできたのを押し返したりしてた経緯もあり、元請けと代理店はあまり良い関係とは言えない状況でした。その中でのこれです。

正直なところ、一瞬このまま気づかなかったことにして・・・という事が思い浮かばなくもありませんでした。ここでうちが全部ほっかむれば、穏便に収まるかも知れません。もし万が一後でバレても、うちが勝手にやった事だと全部うちの責任で収まり、元請けに類が及ぶのを防げるかも知れません。

今ここでうちが本当の報告をすれば、元請けの担当者はその事を広告代理店に報告せざるを得ません。当然烈火のごとく怒られるでしょう。メンツ丸つぶれで、めちゃめちゃ叱責されるであろう担当者の事を思うと、胃が痛いどころの騒ぎではありません。それもこれも全て弊社のせいなのです。

報告するのなら、今すぐしなくてはなりません。ゆっくり考えている時間はありません。横で私の中の悪魔君と天使ちゃんが議論をし出しました。

悪魔君「なあ、ここはもう大丈夫だって言っちまったんだし、ほっかむろうぜ?ばれないって。大体うちが本当の事を言って一体誰が得をするんだ?元請けの担当者が困るだけだぜ?うちの保身のためじゃない、元請けのためなんだよ」

天使ちゃん「ちゃんとうちのミスだって言わなきゃダメだよ!後でウソをごまかすために更にウソを重ねる羽目になるよ!今本当のことを言わないで後でウソだとバレたら、本当に何もかも失ってしまうよ!」

さて、田中はどうしたでしょう?

結論は・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

すぐに本当の事を元請けに電話で報告しました。

スタッフから報告を受けてから、30分も経ってなかったと思います。時間が経てば経つほど判断が鈍る危険性が高くなりますので、こういう事は時間をかけてはいけません。他の役員も皆全員私の判断に同意してくれました。

電話をかけて、うちの調査ミスだったこと、うちのバグによって障害が発生していること、今修復中で、もう間もなく修復が完了する事を伝えました。

説明しながら、電話越しに担当者の顔の血の気が引いていくのを生々しく感じ取る事が出来ました。音声だけでも相手の顔色って「見える」のだなとその時初めて思いました。

一通りご説明を終えた次の瞬間、私は40年くらい生きていて、今まで浴びたことの無い位、強い叱責と罵倒の言葉を電話越しに浴びる事になりました。

信頼を失った私達は、その後、その世界的な某スポーツ大会が終わるまで、開発した試合速報の自動送信システムを一切使う事無く、目視で試合結果を確認してから手作業で速報を送信するという超アナログ対応をする羽目になりました。勿論全て追加費用も全額自腹です。

その大会はほとんどが地上波ではやっていませんでしたので、ライブ視聴出来る衛生放送と契約を結びました。予選はほぼ毎日午前1時と午前4時から試合がありますので、当然徹夜作業になります。スタッフが交代しながら対応しました。

やっている時は全員生き地獄だったと思います。私も正直これは本当につらかった。しかしやるしかありません。スタッフみんなも状況は分かっていますので、ものすごいがんばってくれました。

結果的に全ての試合が終わり、大会が終了した後、元請けのご担当者様が電光石火の勢いで札幌に来ました。

元請けとは他の案件でもいろいろとお取引があります。わざわざ札幌に来る位ですから、まあ取引全部解除通告なのだろうなと気持ち的には白装束切腹を覚悟していました。

ところが、いざ口を開いておっしゃっていただいたのは予想外の言葉だったのです。

 

担当「いや田中さん、今回は本当にいろいろとありがとうございました」

わし「・・・はい?」

担当「今回の件、御社が一部例外的な処理でやらかしたのは間違いの無い事実です。またご存じの通り弊社が代理店とあまりうまく行ってなかった事もあり、夜半にお電話を頂いて報告が実は間違いだったと聞いたときは本当に卒倒しました。」

わし「すいません・・・」

担当「しかし、きちんと正しい報告をしてくれて、その後完璧にリカバリーして頂きました。他にも本来そこまでやるべき話じゃないだろ、というような仕様の変更にも文句も言わず沢山対応してくれました。あれは本当にうちもありがたかったです」

わし「いえいえ、やらかしたのは弊社ですので。。。」

担当「実は代理店からは、その他にもここぞとばかりにふざけんなみたいな仕様変更の話が実はじゃんじゃん来ていたのですが、さすがにこれはないだろ、これは別の話だろ、という事で弊社で止めた話も沢山あって。にしても、うちもやらかしてしまった立場があるので、どうしてもいくつかは御社に対応していただかざるを得なかったのが大変心苦しかったのですが、それらを文句も言わずやって頂きました。本来ならそれはそれでお支払いが発生するべきものだったと思ってます。

それで先日弊社の社長とも話をしまして、今後とも是非デジファと一緒に仕事がしたいと話をしまして、快諾して貰いました。今後とも他の件ともども是非よろしくお願いします。今日はそのことを直接お伝えしたくて札幌まで来ました」

さすがに私もこう言われたときは柄にも無くちょっと目頭が熱くなるものがありました。マッチポンプではありますが、そう言って頂いて本当にありがたかったです。

これまでの苦労が瞬時に吹っ飛ぶススキノの夜はこうして更けていきました(もしこれを当時の関係者が読んでいたら、改めて本当にあのときはご迷惑をおかけしました。そして大変ありがとうございます)。

後から考えると、このエピソードの分岐点はスタッフから実は調査結果は間違いでした、と報告を受けた瞬間だったと思います。

もしあのとき、悪魔の言うとおりにほっかむって知らないフリをし続けていたら・・・と思うと、心底ぞっとしますし、ほっとします。天使偉いぞ。

幸いなことにそういう事はその後二度と起きていませんし、そして今だからこそこう書けていますが、当時は本当につらかった。

なので今回の吉本の件を見て、事務所が一度そうだと報告したことが、実は後から事実と違っていた、ウソだと分かった時、出来ればそのままやりすごしたい、という気持ちを持ったであろう事は、私も心情としては、とてもよく分かります。本当に笑って済ませられる話ではないのです。事が大きければ大きいほど、目を背けたくなるはずです。これは年商500億の会社のトップであろうと、1千万の魚屋のオヤジであろとも変わりません。

しかし、そこはもう乗り越えるしかありません。

後になれば、笑って話すことが出来る、そういう時が必ずやってくる。

未来をそう信じて、今自分たちがしでかした事を、修羅場を一生懸命リカバリするしかないのです。

吉本興業の記者会見を見て、久しぶりにその事を思い出しました。

 

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